2022年10月23日



「祝福されたイサクの歩み」

旧約聖書:創世記26章1節〜33節



1、初めに


前回(9月25日)までのおさらいを簡単にしましょう。

アブラハムには女奴隷ハガルとの子イシュマエル、サラとの間のイサク、そしてケトラとの間にできた6人の子が与えられました。しかし、アブラハムと神との契約を相続する者はサラとの間に生まれたイサクだけです。イサクは父から相続すべき全財産を相続し、アブラハム契約の相続者ともなっていきます。聖書箇所25章19節から35章29節までがイサクの歴史としてイサクやイサクのふたごの息子たち、エサウとヤコブの歩みが記されていきます。前回はエサウとヤコブの誕生の箇所を読みましたが、イサクの妻リベカは、神様から「二つの国があなたの胎内にあり、二つの国民があなたから分かれ出る。一つの国民は他の国民より強く、兄が弟に仕える。」(23節)という大切な言葉を聞いていたにもかかわらず、夫イサクとこの神の言葉を共有することができなかったようで、イサクはエサウを愛し、リベカはヤコブを愛するという問題をはらんだ家族関係となってしまいました。二人の兄弟もふたごとは言え、性格も生活の好みもまったく正反対で、長子の権利をなんとしても自分の手に入れたいと願う弟ヤコブが長子の権利を軽蔑した兄エサウからパンと煮物と引き換えに長子の権利を譲り受けるところまでを見ました。

本日の箇所は、エサウとヤコブから離れて、イサクに焦点を当てたイサクの歩みが記された箇所です。イサクのイメージは従順でおとなしく受身の印象ですが、イサクの生き方から神様の祝福を受けながら生きる姿勢を学ばせていただきましょう。



2、イサクへの祝福(1節〜5節)


創世記12章でアブラ(ハ)ムがネゲブにいた時に飢饉があったときのことを思い出します。そのとき、アブラ(ハ)ムは食料を求めてエジプトに下っていったのですが、自分の妻のサラ(イ)が見目麗しいのをエジプトのパロが見とめて、アブラ(ハ)ムを殺してサラ(イ)を奪うのではないかと恐れ、サラ(イ)を自分の妹であると言うことにしたのでした。そのときの飢饉から100年近くが経過して、イサクの時代にも同じような飢饉が発生しました。イサクも父アブラハムと同じように飢饉を逃れ、家族や家畜を養えるエジプトに下ろうとするのです。

そのときでした。主がイサクに初めて現れて告げます。

「エジプトへは下るな。わたしがあなたに示す地に住みなさい。あなたはこの地に、滞在しなさい。わたしはあなたとともにいて、あなたを祝福しよう。それはわたしが、これらの国々をすべて、あなたとあなたの子孫に与えるからだ。こうしてわたしは、あなたの父アブラハムに誓った誓いを果たすのだ。そしてわたしは、あなたの子孫を空の星のように増し加え、あなたの子孫に、これらの国々をみな与えよう。こうして地のすべての国々は、あなたの子孫によって祝福される。これはアブラハムがわたしの声に聞き従い、わたしの戒めと命令とおきてとおしえを守ったからである。」(2〜5節)

神がアブラハムに示した契約をイサクにも示し、約束の地から離れてはならないことを告げたのです。神が与えると約束された土地はカナンであり、エジプトではありません。父アブラハムと祝福の契約を行ったように、イサクにも7つの祝福を与えています。確認しておきましょう。

@「わたしはあなたとともにいる」、A「共にいてあなたを祝福しよう」、B「これらの国々をすべて、あなたとあなたの子孫に与える」、C「あなたの父アブラハムに誓った誓いを果たす」、D「あなたの子孫を空の星のように増し加える」E「あなたの子孫に、これらの国々をみな与えよう」、F「地のすべての国々は、あなたの子孫によって祝福される」

創世記22章8節で神はアブラハムに「あなたの子孫によって、地のすべての国々は祝福を受けるようになる。あなたがわたしの声に聞き従ったからである。」と告げられましたが、イサクにも全く同じように語られ、あなたの子孫からメシアが現れ、その祝福が地のすべての国々に、また異邦人にまで及ぶことが伝えられました。



3、ゲラル滞在中、リベカを妹と偽る(6節〜11節)


イサク一家は、神にエジプトへ行くことを禁じられ、ゲラルに留まることになりました。ゲラルはペリシテ人の王アビメレクが治めている土地であり、創世記20章でイサクの父アブラハムが自分の妻を妹と偽った出来事がありました。アブラハムはエジプトに行った時とゲラルに滞在したときの二度も自分の妻サラを妹という失敗をしています。サラはアブラハムの異母妹なので妹と言っても全くの偽りとは言えませんが、リベカを妹と言ったイサクの場合は、全くの偽りということになります。ここに登場するアビメレクですが、個人の名前というより、称号のようなものだと考えられています。したがってアブラハムがゲラルに滞在した時のアビメレクとは別のアビメレクと思われます。嘘というものは分かるもののようで、イサクは長くその地に滞在して気がゆるんだのか、妻のリベカと戯れているのをアビメレクに見られてしまいます。その後のアビメレクの反応が面白いではありませんか。

10節 「アビメレクは言った。『何ということをしてくれたのだ。もう少しで、民のひとりがあなたの妻と寝て、あなたはわれわれに罪を負わせるところだった。』

11節 そこでアビメレクはすべての民に命じて言った。「この人と、この人の妻に触れる者は、必ず殺される。」

極端な反応のように思えますが、20章6、7節で神が夢でアビメレクに現れ、次のように語ったと記されています。

神は夢の中で、彼に仰せられた。「そうだ。あなたが正しい心でこの事をしたのを、わたし自身よく知っていた。それでわたしも、あなたがわたしに罪を犯さないようにしたのだ。それゆえ、わたしは、あなたが彼女に触れることを許さなかったのだ。今、あの人の妻を返していのちを得なさい。あの人は預言者であって、あなたのために祈ってくれよう。しかし、あなたが返さなければ、あなたも、あなたに属するすべての者も、必ず死ぬことをわきまえなさい。」

アビメレクはその昔アブラハムがゲラルに滞在していた時の出来事について、神から厳しく諭された内容を伝え聞いていたので、このような通達を人々に出したのでしょう。



4、イサクへの祝福と井戸をめぐる争い(12節〜22節)


12節に「イサクはその地に種を蒔き、その年に百倍の収穫を見た。主が彼を祝福してくださったのである。」とあります。イサクはもともと遊牧民であり、羊や家畜を育てて生活していました。本格的に農業に取り組んだのはこのときが初めてのことだったでしょう。作物を育てるのは初心者だったはずです。しかし驚くべきことにイサクは百倍の収穫を得ました。これは誰が見ても神が特別に祝福しておられたと考えるほかない出来事です。14節に「彼が羊の群れや、牛の群れ、それに多くのしもべたちを持つようになったので、ペリシテ人は彼をねたんだ。」とあります。地元のペリシテ人たちでさえもそのような恵みを受けたことがなかったので、よそ者のイサク家族のそのような祝福にねたみを覚えました。人の心の狭さ、貧しさを見ることができます。

ペリシテ人たちは先ず、「イサクの父アブラハムの時代に、父のしもべたちが掘ったすべての井戸に土を満たしてこれをふさいだ。」(15節)とあります。さらに、アビメレクは「あなたは、われわれよりはるかに強くなったから、われわれのところから出て行ってくれ。」(16節)と言いました。これに対し、「イサクはそこを去って、ゲラルの谷間に天幕を張り、そこに住んだ。」(17節)とあります。イサクは争いを好まず、アビメレクの要求に素直に応じました。そして父アブラハムが掘った井戸を再度掘り返し、しもべたちが見つけた湧き水を利用しようとしましたが、ここでもその土地の羊飼いたちが自分たちの水だと言って争いになりました。(その場所をエセク「争い」と名付けました。)さらに別のところに水源を見つけるとそこでも争いが起こったのでそこをシテナ「敵対、敵意」と名付けました。

そのようなことがあっても、イサクはその場所に執着せず、潔く別の場所を求めて移りました。そして次に見つけた井戸の場所では争いがなく、イサクは「今や、主は私たちに広い所を与えて、私たちがこの地でふえるようにしてくださった。」と言って、その場所をレホボテ「広々とした、開かれた所」と呼びました。争いを避け、神の導きを信頼し、委ねて歩むときに祝福があるようです。このイサクの生き方に学ぶことができるでしょう。



5、再び神がイサクを祝福される(23節〜33節)


イサクがベエル・シェバに上った時に、再び主が彼に現れて祝福されました。「わたしはあなたの父アブラハムの神である。恐れてはならない。わたしがあなたとともにいる。わたしはあなたを祝福し、あなたの子孫を増し加えよう。わたしのしもべアブラハムのゆえに。」(24節)と主は仰せられ、アブラハムへの契約、祝福が完全にイサクに継承されていることが告げられました。イサクは感謝し、祭壇を築き礼拝を献げました。さらにそこで井戸を掘ってみました。

すると丁度そのころゲラルからアビメレクが友人のアフザテ、将軍のピコルと一緒にイサクのところにやって来たのです。イサクは再び争いになるのではないかと緊張したかもしれません。ところが、彼らは「私たちは、主があなたとともにおられることを、はっきり見たのです。それで私たちは申し出をします。どうか、私たちの間で、すなわち、私たちとあなたとの間で誓いを立ててください。あなたと契約を結びたいのです。」(28節)と言い、イサクと友好関係の契約を結ぶために来たというのです。

アビメレクたちは、イサクがゲラルにいる間中、イサクたちが育てる作物は豊かに実り、家畜は増え、井戸はペリシテ人たちの嫌がらせにもかかわらず、行く先々で水源が見つかるということを目の当たりにしてきました。彼らは、「主があなたとともにおられることを、はっきり見たのです。」と言っています。神が共におられる人と争うことはできないと悟り、友好関係を結びに来たのでした。ここでもイサクが主に従順に従って歩む、そのことからその歩みを神様が祝福され、その祝福が敵対していた人にまで及ぶという素晴らしい祝福の輝きを見ることができます。

さらに、おまけの祝福がありました。アビメレクたちが祝宴を終えて平和のうちに帰って行ったその時に、掘っていた井戸から豊かに水があふれ出したという報告が入りました。

その井戸の名はシブア「七」と名付けられました。ベエルは「井戸」です。ユダヤ人にとっては、七は「豊かな、多くの、十分な」という意味があります。イサクに対する神の豊かな恵みを象徴しているのではないでしょうか。



6、まとめと適用


(1) イサクに対する神の祝福

神は二度イサクに現れ、祝福しました。その祝福は、主が共におられ、作物が実り、家畜が増え、井戸がいくつも見つかるという現実的なものだけではなく、アブラハムに与えられたすべての祝福がイサクに与えられるというものでした。創世記22章8節の「あなたの子孫によって、地のすべての国々は祝福を受けるようになる。」という壮大な祝福もこの時イサクに告げられました。この祝福は私たちにも及び、主が共におられるという祝福と救い主によって永遠のいのちが与えられるという祝福に繋がります。

(2) 導いておられる神

神はイサクがエジプトに行かないように告げ、ペリシテ人との井戸をめぐる争いの中でも導いておられました。良いことも悪いことも用いて神の計画に歩むように導かれる方です。その結果、イサクを追い出したアビメレクの方から和解の契約、友好のしるしを求めてイサクのもとを訪ねてきました。主の御旨、計画に従って歩むときに私たちも祝福を受けます。

(3) イサクの従順、柔和

ペリシテ人たちはイサクへの妬みから、井戸を埋めたり、追い立てたりしました。その都度イサクは争わず、柔和な心をもって別の土地へと移動していきました。その結果、アビメレクたちの方から、「私たちは、主があなたとともにおられることを、はっきり見たのです。」と言って、友好関係を結びに来ました。私たちも、クリスチャンとして「あなたがイエス・キリストと共にいることが分かりました」とか、「さすがクリスチャン」とか言われるようになりたいものです。

(4) 神の祝福とは

物質的に増えること、生きる使命や任務が与えられること、霊的に満たされること、他の人に神の恵みを分かち与えること、信徒の交わりなどが祝福と考えられますが、何れにしても、私たちが神のご計画の内に歩んでいるときに良いことも悪いこともすべてを益としてくださる神が私たちを祝福してくださるのではないでしょうか。

「悪をもって悪に報いず、侮辱をもって侮辱に報いず、かえって祝福を与えなさい。あなたがたは祝福を受け継ぐために召されたのだからです。」(Tペテロ3:9)




創世記 26章1〜33節

1 さて、アブラハムの時代にあった先のききんとは別に、この国にまたききんがあった。それでイサクはゲラルのペリシテ人の王アビメレクのところへ行った。

2 主はイサクに現れて仰せられた。「エジプトへは下るな。わたしがあなたに示す地に住みなさい。

3 あなたはこの地に、滞在しなさい。わたしはあなたとともにいて、あなたを祝福しよう。それはわたしが、これらの国々をすべて、あなたとあなたの子孫に与えるからだ。こうしてわたしは、あなたの父アブラハムに誓った誓いを果たすのだ。

4 そしてわたしは、あなたの子孫を空の星のように増し加え、あなたの子孫に、これらの国々をみな与えよう。こうして地のすべての国々は、あなたの子孫によって祝福される。

5 これはアブラハムがわたしの声に聞き従い、わたしの戒めと命令とおきてとおしえを守ったからである。」

6 イサクがゲラルに住んでいるとき、

7 その土地の人々が彼の妻のことを尋ねた。すると彼は、「あれは私の妻です」と言うのを恐れて、「あれは私の妹です」と答えた。リベカが美しかったので、リベカのことでこの土地の人々が自分を殺しはしないかと思ったからである。

8 イサクがそこに滞在して、かなりたったある日、ペリシテ人の王アビメレクが窓から見おろしていると、なんと、イサクがその妻のリベカを愛撫しているのが見えた。

9 それでアビメレクはイサクを呼び寄せて言った。「確かに、あの女はあなたの妻だ。なぜあなたは『あれは私の妹です』と言ったのだ。」それでイサクは、「彼女のことで殺されはしないかと思ったからです」と答えた。

10 アビメレクは言った。「何ということをしてくれたのだ。もう少しで、民のひとりがあなたの妻と寝て、あなたはわれわれに罪を負わせるところだった。」

11 そこでアビメレクはすべての民に命じて言った。「この人と、この人の妻に触れる者は、必ず殺される。」

12 イサクはその地に種を蒔き、その年に百倍の収穫を見た。主が彼を祝福してくださったのである。

13 こうして、この人は富み、ますます栄えて、非常に裕福になった。

14 彼が羊の群れや、牛の群れ、それに多くのしもべたちを持つようになったので、ペリシテ人は彼をねたんだ。

15 それでペリシテ人は、イサクの父アブラハムの時代に、父のしもべたちが掘ったすべての井戸に土を満たしてこれをふさいだ。

16 そうしてアビメレクはイサクに言った。「あなたは、われわれよりはるかに強くなったから、われわれのところから出て行ってくれ。」

17 イサクはそこを去って、ゲラルの谷間に天幕を張り、そこに住んだ。

18 イサクは、彼の父アブラハムの時代に掘ってあった井戸を、再び掘った。それらはペリシテ人がアブラハムの死後、ふさいでいたものである。イサクは、父がそれらにつけていた名と同じ名をそれらにつけた。

19 イサクのしもべたちが谷間を掘っているとき、そこに湧き水の出る井戸を見つけた。

20 ところが、ゲラルの羊飼いたちは「この水はわれわれのものだ」と言って、イサクの羊飼いたちと争った。それで、イサクはその井戸の名をエセクと呼んだ。それは彼らがイサクと争ったからである。

21 しもべたちは、もう一つの井戸を掘った。ところが、それについても彼らが争ったので、その名をシテナと呼んだ。

22 イサクはそこから移って、ほかの井戸を掘った。その井戸については争いがなかったので、その名をレホボテと呼んだ。そして彼は言った。「今や、主は私たちに広い所を与えて、私たちがこの地でふえるようにしてくださった。」

23 彼はそこからベエル・シェバに上った。

24 主はその夜、彼に現れて仰せられた。「わたしはあなたの父アブラハムの神である。恐れてはならない。わたしがあなたとともにいる。わたしはあなたを祝福し、あなたの子孫を増し加えよう。わたしのしもべアブラハムのゆえに。」

25 イサクはそこに祭壇を築き、主の御名によって祈った。彼はそこに天幕を張り、イサクのしもべらは、そこに井戸を掘った。

26 そのころ、アビメレクは友人のアフザテとその将軍ピコルと、ゲラルからイサクのところにやって来た。

27 イサクは彼らに言った。「なぜ、あなたがたは私のところに来たのですか。あなたがたは私を憎んで、あなたがたのところから私を追い出したのに。」

28 それで彼らは言った。「私たちは、主があなたとともにおられることを、はっきり見たのです。それで私たちは申し出をします。どうか、私たちの間で、すなわち、私たちとあなたとの間で誓いを立ててください。あなたと契約を結びたいのです。

29 それは、私たちがあなたに手出しをせず、ただ、あなたに良いことだけをして、平和のうちにあなたを送り出したように、あなたも私たちに害を加えないということです。あなたは今、主に祝福されています。」

30 そこでイサクは彼らのために宴会を催し、彼らは飲んだり、食べたりした。

31 翌朝早く、彼らは互いに契約を結んだ。イサクは彼らを送り出し、彼らは平和のうちに彼のところから去って行った。

32 ちょうどその日、イサクのしもべたちが帰って来て、彼らが掘り当てた井戸のことについて彼に告げて言った。「私どもは水を見つけました。」

33 そこで彼は、その井戸をシブアと呼んだ。それゆえ、その町の名は、今日に至るまで、ベエル・シェバという。





説教者:新宮 昇 長老