2022年6月19日



「イサクの嫁を迎えに行ったしもべ」

旧約聖書:創世記 24章1〜31節



1.初めに

前回(5月22日)は、愛する妻サラに先立たれたアブラハムが、悲しみの中にありながらもカナンの地に妻を葬るための洞穴と畑地を取得するという出来事でした。カナンの地をアブラハムの子孫に与えるという土地契約の最初の記念すべき出来事でした。その際のアブラハムの振る舞いは、一点の曇りもない神さまへの篤い信仰を表わすものでした。

今日の箇所は、アブラハムの人生の最後の大きな仕事ともいえる、息子イサクの妻になる女性をカナンの地に迎えるという出来事です。アブラハムの住むカナンの地はアブラハムの信仰とは異なる異邦人の住む土地です。異邦人社会の中で、神様が約束された子孫への祝福を実現するためには、息子イサクが同じ信仰を持つ女性と結婚する必要があったのです。今日の箇所は、旧約聖書の中でもとりわけ美しい物語です。ドラマのような話の展開から、神様の奇しい御手の働きを見ていきましょう。



2.アブラハムは家の最年長のしもべに言った。(1〜10節)

アブラハムの妻サラが亡くなったのは127歳でした(23章1節)。アブラハムが137歳のときです。イサクは37歳になっていました。アブラハムは175歳で生涯を閉じます(25章7節)から、「年を重ねて、老人になっていた」と言っていいでしょう。老齢になったアブラハムにはもう一つの大切ななすべきことがありました。それがイサクの結婚相手を見つけるということでした。

(1)「カナン人の娘の中から、私の息子の妻をめとってはならない。」(3節)

アブラハム一族が住むカナンにも若い女性はたくさんいたと思われますが、神様との契約を確実なものにするためには、アブラハムが75歳まで一緒に過ごし、同じ信仰を持つ故郷のハランの人の中から結婚相手を決めなければならなかったのです。

(参考)「アブラハムは必ず大いなる強い国民となり、地のすべての国々は、彼によって祝福される。わたしが彼を選び出したのは、彼がその子らと、彼の後の家族とに命じて主の道を守らせ、正義と公正とを行わせるため、主が、アブラハムについて約束したことを、彼の上に成就するためである。」(18章18、19節)

(2)「あなたは私の生まれ故郷に行き、私の息子イサクのために妻を迎えなさい。」(4節)

これは、容易ならざるミッションです。その当時女性の立場は非常に弱く、結婚がうまくいかなかったらその女性の人生は悲惨なものになったと思われます。700km程も離れた会ったこともない男性の所に嫁ぐ女性が簡単に見つかるとは思えません。このしもべ(エリエゼル、創世記15章2節参照)が「もしかして、その女の人が、私についてこの国へ来ようとしない場合、お子を、あなたの出身地へ連れ戻さなければなりませんか。」(5節)といったのも当然でしょう。しかし、アブラハムには確信があったようです。7節で「天の神、主は、御使いをあなたの前に遣わされる。あなたは、あそこで私の息子のために妻を迎えなさい。」と言い切っています。ここでもアブラハムが主なる神にイサクを捧げよと言われた際に、神様は最善を為してくださるとの信頼をもってモリヤの山に登った時のアブラハムの信仰(22章14節アドナイ・イルエ)を見ることができます。

(3)アブラハムの信仰としもべ(エリエゼル)から学ぶ

・アブラハムがイサクに残そうとした遺産は信仰

7節でアブラハムは「私を、私の父の家、私の生まれ故郷から連れ出し、私に誓って、『あなたの子孫にこの地を与える』と約束して仰せられた天の神、主」と言っていますが、12章1節で神様に「あなたは、あなたの生まれ故郷、あなたの父の家を出て、わたしが示す地へ行きなさい。」と言われて、故郷ハランを旅立ったのです。同じ体験、同じ信仰を持った女性がイサクの伴侶に相応しいと考えたのでしょう。

私たちも、アブラハムのように信仰の継承に情熱を傾ける必要があることを教えられます。

・しもべ(エリエゼル)の忠実さに学ぶ

しもべエリエゼルは、15章2節でアブラハムが「私には子がありません。私の家の相続人は、あのダマスコのエリエゼルになるのでしょうか。」と言ったように、アブラハムの相続人になる可能性のある人でした。100歳のアブラハムにイサクが生まれたために相続人になれずにしもべとしてアブラハムに仕えていました。しかし、そのような損得勘定、利害関係などとは全く関係なく、忠実にアブラハムに仕える姿は主に仕える者のお手本になります。今日のお話しの主役は、アブラハムでも、イサクでも、リベカでもなくこのしもべが主役です。



3.しもべの祈り(11〜14節)

10節で「彼は立ってアラム・ナハライムのナホルの町へ行った。」とあります。簡単に記されていますが、700kmほどの道のりをロバ十頭を率いての旅ですから、一日に50km進んだとしても2週間はかかります。水や食糧、お土産の装飾品などもたくさん積んでの旅ですからかなり時間がかかったことでしょう。それでも無事にアブラハムの兄弟ナホルが住む町に着きました。アラム・ナハライムとは「二つの川に挟まれたアラム」という意味があるようです。すなわち、アブラハムが12章4節で家族やロトを連れて出発したハランのことです。

11節で、さっそくしもべは町の井戸のところでお祈りをします。夕暮れになると町の女性たちが井戸に水を汲みに来るので、井戸でイサクに相応しい女性を見つけようとするのは、理にかなった賢い方法です。

(1)主人アブラハムの祝福を求めて祈る祈り。

12節で「私の主人アブラハムに恵みを施してください。」と祈っています。普通なら自分の役目、ミッションがうまく終えられるように祈りそうですが、主なる神がアブラハムを祝福してくださるように、神様の計画がなされるように祈っています。

(2)サクに相応しい女性のしるしを求める祈り

14節で、『お飲みください。私はあなたのらくだにも水を飲ませましょう』と言ってくれた女性がイサクに相応しい女性であるというしるしを求め、神様のお考え、み旨を知ろうとしました。



4.リベカの登場、しもべとリベカの会話(15〜21節)

15節で一人の女性が井戸にやってきました。リベカです。「アブラハムの兄弟ナホルの妻ミルカの子ベトエルの娘であった。」と書かれていますが、お互いに相手が誰であるのかはこの時点では知らないわけです。しもべのお祈りが終わらないうちに、リベカが現れるのですから、出来過ぎた話のようですが、7節でアブラハムが「主は、御使いをあなたの前に遣わされる。」といった通り、御使いの働きによりしもべはリベカに会うことができたのです。

17節で、早速しもべは「どうか、あなたの水がめから、少し水を飲ませてください。」と言います。これが、イサクに相応しい女性かどうかのテストです。「すると彼女は、『どうぞ、お飲みください。だんなさま』と言って、すばやく、その手に水がめを取り降ろし、彼に飲ませ」ました。第一段階は合格です。そして、「あなたのらくだのためにも、それが飲み終わるまで、水を汲んで差し上げましょう」と言ってくれました。見事にしもべが願っていた条件をクリアしました。言うのは簡単ですが、10頭のラクダに水を飲ませることは容易なことではありません。1頭のラクダが飲む水の量は、100リットルにもなるそうです。それだけの水を体内に貯えることができるのでラクダは2週間もまったく水を飲まなくても死なないで歩き続けることができます。仮に、1頭が50リットルの水を飲むとすると、10頭で500リットルです。リベカが水がめに入れて1回に運べる量を25リットル(水瓶の重さも入れれば30kgぐらいになります。)と考えると、500リットル運ぶためには30kgの重さのものを20回往復して運ばなければなりません。こんな女性がいるものでしょうか。21節を見るとしもべは「主が自分の旅を成功させてくださったかどうかを知ろうと、黙って彼女を見つめていた。」とあります。じっとしもべが見つめている中でリベカは10頭のラクダに水を飲ませ終えるのです。



5.しもべとリベカとの会話と神への感謝の祈り(22〜28章)

しもべは目の前にいるリベカこそが、主、御使いが導いて会わせてくださったイサクの伴侶になるべき女性であることを確信しました。それで、「重さ一ベカの金の飾り輪と、彼女の腕のために、重さ十シェケルの二つの金の腕輪を取り」出しています。1ベカは57グラム、1シェケルは11.4グラムです。23章でアブラハムがマクペラの土地を購入した際にエフロンに400シェケルを支払っています。)花嫁料(結納)はこの後の段階ですが、この時点でのリベカへの感謝の気持ちとこれからイサクのお嫁さんになるべき人への贈り物であったに違いありません。

しもべは、この女性が自分の御主人アブラハムの兄弟ナホルと妻ミルカの子ベトエルの娘リベカであることを知ります。何という神の摂理でしょう。神を信じ、神に従うものは偶然とか縁ではなく神の見えざる手が動いて導いてくださる神の摂理を信じて歩んでいきます。

27節でしもべはその神の導きを感謝し祈ります。ここでも「私の主人アブラハムの神、主がほめたたえられますように。」と自分のことではなくアブラハムの神の前にへりくだり、ほめ讃え感謝しています。



6.ラバン登場(29〜31節)

リベカの兄、父ベトエルの息子のラバンが登場します。

30節で、ラバンは、「鼻の飾り輪と妹の腕にある腕輪を見、また、『あの人がこう私に言われました』と言った妹リベカのことばを聞くとすぐ、その人のところに行」きました。さらに、「どうぞおいでください。主に祝福された方。どうして外に立っておられるのですか。私は家と、らくだのための場所を用意しております。」としもべを迎え入れようとするのです。とても好意的、友好的に見えますが、実は金銭欲の強い人で後にイサクの双子の息子の一人ヤコブを自分の娘ラケルとの結婚を認める条件として、ヤコブに延べ20年間自分の僕として仕えさせることになります。リベカの心優しい性格とは対照的な兄です。



7.まとめと適用

(1)アブラハムの信仰から

アブラハムはしもべにイサクの妻となるべき女性を故郷のハランから連れてくるようにと命じました。それは、アブラハムが神から約束された祝福を子孫に引き継いでいくために同じ信仰を持つ女性がイサクの妻となるべきとの考えからでした。妻となるべきリベカにもアブラハムたちが通されたカナンへの旅を経験し、真の神にただ信頼し従う歩みをすることが必要だったからです。

神がアブラハムに「あなたの子孫によって、地のすべての国々は祝福を受けるようになる。あなたがわたしの声に聞き従ったからである。」(22章18節)といわれたように、私たちも神の祝福を受けるものとして、子孫や家族だけでなく地域社会や学校や会社などどこにおいても神の祝福を伝えるべきではないでしょうか。

(2)しもべの信仰と祈りについて

しもべ(エリエゼル)は一時はアブラハムの跡継ぎになるかと思われた人物です。それほどアブラハムが信頼していたしもべでした。イサクが生まれ、アブラハムの継承者になる可能性が無くなっても、彼の心は何のわだかまりもなく澄み切っていました。アブラハムと同じ神に対する信仰を持ちながら、「私の主人アブラハムの神」と言って祈り、神とアブラハムの約束・契約を第一にしていた姿勢が素晴らしいと思います。

神様が約束してくださったことを祈りの中で神様の前に祈ることはなんと力のあることでしょう。神様が助けてくださると信頼しきった祈りに神様は応えてくださいます。

(3)リベカの美しい心

しもべが、イサクの伴侶として相応しい女性の条件として、「どうかあなたの水がめを傾けて私に飲ませてください」と言ったら、その娘が「お飲みください。私はあなたのらくだにも水を飲ませましょう」と言うことでした。井戸から500リットルもの水を運ぶことは心の中で思っても、なかなか言い出せることではありません。リベカは優しいだけではなく、気のきく、賢く健康的な女性だったに違いありません。

聖書に黄金律とわれる御言葉があります。マタイの福音書7章12節です。

「それで、何事でも、自分にしてもらいたいことは、ほかの人にもそのようにしなさい。これが律法であり預言者です。」

主イエスは「これが律法であり預言者です。」ということで、旧約聖書全体をこの一節にまとめました。この御言葉を守るためには愛がなければなりません。今日読んだリベカの行動はまさにこの一節に言われているような見事な愛の行動であったと言えます。



<創世記 24章1〜31節>

1 アブラハムは年を重ねて、老人になっていた。主は、あらゆる面でアブラハムを祝福しておられた。

2 そのころ、アブラハムは、自分の全財産を管理している家の最年長のしもべに、こう言った。「あなたの手を私のももの下に入れてくれ。

3 私はあなたに、天の神、地の神である主にかけて誓わせる。私がいっしょに住んでいるカナン人の娘の中から、私の息子の妻をめとってはならない。

4 あなたは私の生まれ故郷に行き、私の息子イサクのために妻を迎えなさい。」

5 しもべは彼に言った。「もしかして、その女の人が、私についてこの国へ来ようとしない場合、お子を、あなたの出身地へ連れ戻さなければなりませんか。」

6 アブラハムは彼に言った。「私の息子をあそこへ連れ帰らないように気をつけなさい。

7 私を、私の父の家、私の生まれ故郷から連れ出し、私に誓って、『あなたの子孫にこの地を与える』と約束して仰せられた天の神、主は、御使いをあなたの前に遣わされる。あなたは、あそこで私の息子のために妻を迎えなさい。

8 もし、その女があなたについて来ようとしないなら、あなたはこの私との誓いから解かれる。ただし、私の息子をあそこへ連れ帰ってはならない。」

9 それでしもべは、その手を主人であるアブラハムのももの下に入れ、このことについて彼に誓った。

10 しもべは主人のらくだの中から十頭のらくだを取り、そして出かけた。また主人のあらゆる貴重な品々を持って行った。彼は立ってアラム・ナハライムのナホルの町へ行った。

11 彼は夕暮れ時、女たちが水を汲みに出て来るころ、町の外の井戸のところに、らくだを伏させた。

12 そうして言った。「私の主人アブラハムの神、主よ。きょう、私のためにどうか取り計らってください。私の主人アブラハムに恵みを施してください。

13 ご覧ください。私は泉のほとりに立っています。この町の人々の娘たちが、水を汲みに出てまいりましょう。

14 私が娘に『どうかあなたの水がめを傾けて私に飲ませてください』と言い、その娘が『お飲みください。私はあなたのらくだにも水を飲ませましょう』と言ったなら、その娘こそ、あなたがしもべイサクのために定めておられたのです。このことで私は、あなたが私の主人に恵みを施されたことを知ることができますように。」

15 こうして彼がまだ言い終わらないうちに、見よ、リベカが水がめを肩に載せて出て来た。リベカはアブラハムの兄弟ナホルの妻ミルカの子ベトエルの娘であった。

16 この娘は非常に美しく、処女で、男が触れたことがなかった。彼女は泉に降りて行き、水がめに水を満たし、そして上がって来た。

17 しもべは彼女に会いに走って行き、そして言った。「どうか、あなたの水がめから、少し水を飲ませてください。」

18 すると彼女は、「どうぞ、お飲みください。だんなさま」と言って、すばやく、その手に水がめを取り降ろし、彼に飲ませた。

19 彼に水を飲ませ終わると、彼女は、「あなたのらくだのためにも、それが飲み終わるまで、水を汲んで差し上げましょう」と言った。

20 彼女は急いで水がめの水を水ぶねにあけ、水を汲むためにまた井戸のところまで走って行き、その全部のらくだのために水を汲んだ。

21 この人は、主が自分の旅を成功させてくださったかどうかを知ろうと、黙って彼女を見つめていた。

22 らくだが水を飲み終わったとき、その人は、重さ一ベカの金の飾り輪と、彼女の腕のために、重さ十シェケルの二つの金の腕輪を取り、

23 尋ねた。「あなたは、どなたの娘さんですか。どうか私に言ってください。あなたの父上の家には、私どもが泊めていただく場所があるでしょうか。」

24 彼女が答えた。「私はナホルの妻ミルカの子ベトエルの娘です。」

25 そして言った。「私たちのところには、わらも、飼料もたくさんあります。それにまたお泊まりになる場所もあります。」

26 そこでその人は、ひざまずき、主を礼拝して、

27 言った。「私の主人アブラハムの神、主がほめたたえられますように。主は私の主人に対する恵みとまこととをお捨てにならなかった。主はこの私をも途中つつがなく、私の主人の兄弟の家に導かれた。」

28 その娘は走って行って、自分の母の家の者に、これらのことを告げた。

29リベカにはひとりの兄があって、その名をラバンと言った。ラバンは外へ出て泉のところにいるその人のもとへ走って行った。

30 彼は鼻の飾り輪と妹の腕にある腕輪を見、また、「あの人がこう私に言われました」と言った妹リベカのことばを聞くとすぐ、その人のところに行った。すると見よ。その人は泉のほとり、らくだのそばに立っていた。

31 そこで彼は言った。「どうぞおいでください。主に祝福された方。どうして外に立っておられるのですか。私は家と、らくだのための場所を用意しております。」




説教:新宮 昇 長老