2022年5月22日



「サラの死と葬り」

旧約聖書:創世記23章1節〜20節



1、初めに

前回(4月24日)は、神がアブラハムのひとり子イサクを捧げるようにというアブラハムの人生の最大の試練をアブラハムは神に対する信仰により乗り越えた場面を見ました。

その試練の場所モリヤの山から帰って来たアブラハムは、その後サラの死を迎えましたが、サラを葬るためのお墓すら持っていませんでした。神はアブラハムに、「あなたの子孫に、わたしはこの地を与える」と仰っていましたが、アブラハムはサラのためのお墓を手に入れることができるのでしょうか。

アブラハムも人生の秋と言える時期を迎えています。老年になったアブラハムの歩みから学びたいと思います。


2、22章19〜24節 故郷からの情報

19節〜24節を読みましょう。アブラハムの故郷ハランから兄弟たちの情報が届きます。

アブラハムが故郷のハランを家族と共に出発したのは75歳の時でした(12:4)。その時から何年が経過したのでしょう。イサクが生まれたのがアブラハム100歳の時でした。イサクを捧げよという神様からの試練があり、その後本日の聖書箇所でサラが127歳で亡くなりますが、そのときのアブラハムの年齢は137歳です。

そうすると、故郷からの情報が届いたのは、故郷を出てから50年ぐらいたっていたころということになるのでしょう。アブラハムはどんな気持ちで懐かしい故郷の人々の話しを聞いたことでしょう。望郷の念に駆られたかもしれません。兄弟のナホルに8人の子どもたちが与えられました。特にベトエルは24章でイサクのお嫁さんになるリベカの父です。神様が前もってアブラハムにイサクのお嫁さん候補の情報を与えておいたと言えるでしょう。この情報は24章のイサクの結婚の話しへの伏線となっています。


3、23章1〜2節 サラの死とその人生

アブラハムが137歳の時にサラは127歳で亡くなりました。100年前後共に連れ添ったのではないでしょうか。サラは夫に自分の考えをはっきりと伝えるしっかりとした面もありましたが、人生を通してアブラハムに従順に従った人です。Tペテロの手紙3章6節では「たとえばサラも、アブラハムを主と呼んで彼に従いました。」とあります。

長い人生の間にはいろいろなことがありました。時には失敗もありました。

創世記18章でアブラハムが主に「わたしは来年の今ごろ、必ずあなたのところに戻って来ます。そのとき、あなたの妻サラには、男の子ができている。」と言われました。それを聞いていたサラは「私はほんとうに子を産めるだろうか。こんなに年をとっているのに」と言って笑ったとあります。また、女奴隷のハガルのことでは随分アブラハムを悩ませ、ハガルがその子イシュマエルとともにアブラハムのもとから出ていかざるを得ないようにしました。そのように人としての弱さもありましたが、サラもアブラハムと同じように信仰の人でした。ヘブル人への手紙11章11節では、「信仰によって、サラも、すでにその年を過ぎた身であるのに、子を宿す力を与えられました。彼女は約束してくださった方を真実な方と考えたからです。」と主を信じていたことが記されています。

さて、2節に「アブラハムは来てサラのために嘆き、泣いた。」とあります。アブラハムの生涯には何度も涙する場面があったと思います。12章で、故郷を出発し慣れ親しんだ町を離れ、親族や友人やと別れたとき。お父さんのテラがハランで死んだとき。愛する甥のロトと別れなければならなくなったとき。また、ロトが住むソドムの町が滅ぼされると知ったとき。そして愛するひとり子イサクを捧げよと神様に命じられたとき。アブラハムは泣いたのではないでしょうか。しかし、アブラハムが泣いたと聖書に書かれているのは、この23章2節だけなのです。新共同訳では「サラのために胸を打ち」と書かれています。いかにアブラハムの嘆き、悲しみが、大きかったかということがそこに表れています。


4、3〜20節 サラのための墓地の購入

最愛の妻、サラを失ったアブラハムは、サラのための墓地購入に取り掛かります。

3節「それからアブラハムは、その死者のそばから立ち上がり、ヘテ人たちに告げて言った。」とあります。Tテサロニケ4章13節に「眠った人々のことについては、兄弟たち、あなたがたに知らないでいてもらいたくありません。あなたがたが他の望みのない人々のように悲しみに沈むことのないためです。」という御言葉があります。主にあるものには天国の希望があるので、いつまでも悲しんだままではなく、立ち上がることができます。

4節でアブラハムは自分のことを「あなたがたの中に居留している異国人」であると言いました。このカナンの地に来て60年ほどになると思われますが、まだ異国人で寄留者だと言うのです。実際、未だサラを葬るための土地さえ持っていなかったのです。創世記12章、13章、15章、17章で約束された土地の契約はこの時点では墓地ほどの土地も実現していませんでした。

6節では、「ご主人。私たちの言うことを聞き入れてください。あなたは私たちの間にあって、神のつかさです。私たちの最上の墓地に、なくなられた方を葬ってください。私たちの中で、だれひとり、なくなられた方を葬る墓地を拒む者はおりません。」とヘテ人たちはアブラハムにへりくだって墓地の提供を申し出ています。アブラハムがカナンでも尊敬を勝ち得ていたことがわかります。

しかし、この地は、カナン人(創世記10:15以降に、「カナンは長子シドン、ヘテ、エブス人、エモリ人、ギルガシ人、ヒビ人、アルキ人、シニ人、アルワデ人、ツェマリ人、ハマテ人を生んだ。その後、カナン人の諸氏族が分かれ出た。」とあります。)が住む土地で、異国人がこのカナンで土地を買うことは容易なことではなかったと思われます。アブラハムも「ヘテ人にていねいにおじぎをして、」その土地のしきたりに従い、エフロンの所有しているマクペラのほら穴を私に譲ってくれるようにしてくださいと言いました。エフロンはアブラハムに言いました。

11節「ご主人。どうか、私の言うことを聞き入れてください。畑地をあなたに差し上げます。そこにあるほら穴も、差し上げます。私の国の人々の前で、それをあなたに差し上げます。なくなられた方を、葬ってください。」

なんと、マクペラのほら穴に畑地を付けてただでくれるというのです。アブラハムはどうしたでしょう。

アブラハム――13節「もしあなたが許してくださるなら、私の言うことを聞き入れてください。私は畑地の代価をお払いします。どうか私から受け取ってください。そうすれば、死んだ者をそこに葬ることができます。」

エフロン――15節「ではご主人。私の言うことを聞いてください。銀四百シェケルの土地、それなら私とあなたとの間では、何ほどのこともないでしょう。どうぞ、なくなられた方を葬ってください。」

銀1シェケルは、この時代には11.4グラムだったと考えられています。400シェケルだと4560グラムになります。時代によって、また取引の内容によって1シェケルの重さが変わってきます。さらに後の時代になるとシェケル銀貨が鋳造されるようになります。当時の400シェケルがどのぐらいの価値なのか正確には分かりませんが、エレミヤ書32章9節では預言者エレミヤが銀17シェケルで畑を買ったという記事があります。また、出エジプト記21章32節では「もし、牛が男奴隷あるいは女奴隷を突いた場合は、銀30シェケルをその主人に支払い、その牛は石で打ち殺さなければならない。」とあります。1シェケルが労働者3日分の賃金という説もありました。

以上のことから、銀400シェケルはかなりの高額ではなかったかと思います。

アブラハムは、エフロンの言い値で「通り相場で銀四百シェケルを計ってエフロンに渡した。」とあります。ただでくれると言われた土地に対して、かなりの高額であるにもかかわらず、申し出の通りの代金を支払ったのはどのような理由からなのでしょう。

まさに、この土地こそがアブラハムが約束の地において、最初に手に入れる土地なのです。

神様がアブラハムに与えると約束したその最初の土地であり、記念すべき土地です。神様との土地に関する契約の最初の成就です。それはアブラハムの信仰の目に見える成就でもあったのです。

そのような、大切な神様との契約、約束の成就であるこの土地をただで貰ったり、値段を値切ったりすることは到底できなかったのです。多くのヘテ人が見ている前で公明正大に誰からも非難されることがなく、当時の正式な方法で土地を買い取りたかったのです。        ↑50シェケルぐらい


5、マクペラのほら穴

ヘブロンのマムレの東にあります。ここがサラの墓となり、のちにアブラハムも葬られ、その子供イサクとリベカも葬られました。また、ヤコブとレアの6人が葬られています。

しかし、このヘブロンというのはニュースで最近もよく耳にするように、イスラエルとパレスティナ人の衝突の最も激しい場所になっています。ユダヤ教とイスラム教の両方の聖地となっており、8割の土地をパレスティナ人が2割の土地をイスラエルが管理する協定ができていますが争いが絶えない状況です。

土地をめぐる人類の争いは過去から現在もまた未来に続く難しい問題です。土地に関するアブラハム契約が成就するのは千年王国が到来した時と言われています。


6、まとめと適用

(1)老年を迎えたアブラハムの歩みから
老年を迎えたアブラハムは、故郷からの知らせを聞いて望郷の念に駆られたかもしれません。そんな時に愛する妻サラを亡くし自分の人生を振り返ったと思います。故郷に帰ってサラを葬ろうという考えが頭をよぎったかもしれません。しかし、アブラハムはしっかりと立ち上がり、長く寄留者として生活して来たカナンの地にサラのための墓を所有し、神様からの約束、契約を形あるものにしようとするのです。私たちも、自分の人生を振り返り、クリスチャンとしての人生、歩みを振り返っても良いかもしれません。そして、私たちはこの世にあっては寄留者で、この国においては異邦人のようでもありますが、天の故郷があることを確認したいと思います。

(2)サラの人生から
サラの人生はアブラハムと共にある歩みであり、失敗もあったけれども信仰によってイサクを90歳で与えられました。127歳で死の時を迎えましたが、サラの死をきっかけとしてアブラハムはサラのための墓地を購入することになります。神様が約束してくださったカナンの土地をアブラハムの子孫に与えるという約束の記念すべき最初の土地となりました。サラの人生も神さまに祝福された幸いな人生だったと言えるでしょう。

アブラハムはサラの死を通して、自分の子孫が祝福を受けること、天の御国に永遠の故郷があり、サラと天国で再会するという希望も持ったのではないでしょうか。

私たちも「私たちの国籍は天にあります。」(ピリピ3:20)御言葉のとおり天の御国を見上げて歩んでいきましょう。

(3)マクペラのほら穴と畑地の購入から
アブラハムはカナンの地に60年も住んでいながら未だに寄留者、異国人でした。土地を購入するのにも、謙遜にへりくだって、カナンのしきたりに従い、大勢のヘテ人の前で公明正大にしかもエフロンの言い値で土地を購入しました。神様から与えられると約束された最初の土地であり、神様に礼拝し、サラを葬るための土地ですから、一点の曇りもない、神さまに対する信仰の証しとしての姿勢が大事であると考えました。しかも、神様に対すること以外の点では、カナンの人々のしきたりや規則、慣習に合わせ、人々から尊敬を受けていたことがわかります。

私たちも、神様に関すること、礼拝や献金、献げ物、財産の管理などにおいては、常に信仰的に、神様を第一にすることを考えたいと思います。また、それ以外の点においては、社会から批判されることのないように、むしろ一般社会から尊敬されるように行動したいものです。



説教:新宮 昇 長老



<創世記 23章1〜20節>

1 サラの一生、サラが生きた年数は百二十七年であった。

2 サラはカナンの地のキルヤテ・アルバ、すなわちヘブロンで死んだ。アブラハムは来てサラのために嘆き、泣いた。

3 それからアブラハムは、その死者のそばから立ち上がり、ヘテ人たちに告げて言った。

4 「私はあなたがたの中に居留している異国人ですが、あなたがたのところで私有の墓地を私に譲っていただきたい。そうすれば私のところから移して、死んだ者を葬ることができるのです。」

5 ヘテ人たちはアブラハムに答えて言った。

6  「ご主人。私たちの言うことを聞き入れてください。あなたは私たちの間にあって、神のつかさです。私たちの最上の墓地に、なくなられた方を葬ってください。私たちの中で、だれひとり、なくなられた方を葬る墓地を拒む者はおりません。」

7 そこでアブラハムは立って、その土地の人々、ヘテ人にていねいにおじぎをして、

8 彼らに告げて言った。「死んだ者を私のところから移して葬ることが、あなたがたのおこころであれば、私の言うことを聞いて、ツォハルの子エフロンに交渉して、

9 彼の畑地の端にある彼の所有のマクペラのほら穴を私に譲ってくれるようにしてください。彼があなたがたの間でその畑地に十分な価をつけて、私に私有の墓地として譲ってくれるようにしてください。」

10 エフロンはヘテ人たちの間にすわっていた。ヘテ人のエフロンは、その町の門に入って来たヘテ人たちみなが聞いているところで、アブラハムに答えて言った。

11 「ご主人。どうか、私の言うことを聞き入れてください。畑地をあなたに差し上げます。そこにあるほら穴も、差し上げます。私の国の人々の前で、それをあなたに差し上げます。なくなられた方を、葬ってください。」

12 アブラハムは、その土地の人々におじぎをし、

13 その土地の人々の聞いているところで、エフロンに告げて言った。「もしあなたが許してくださるなら、私の言うことを聞き入れてください。私は畑地の代価をお払いします。どうか私から受け取ってください。そうすれば、死んだ者をそこに葬ることができます。」

14 エフロンはアブラハムに答えて言った。

15 「ではご主人。私の言うことを聞いてください。銀四百シェケルの土地、それなら私とあなたとの間では、何ほどのこともないでしょう。どうぞ、なくなられた方を葬ってください。」

16 アブラハムはエフロンの申し出を聞き入れ、エフロンがヘテ人たちの聞いているところでつけた代価、通り相場で銀四百シェケルを計ってエフロンに渡した。

17 こうして、マムレに面するマクペラにあるエフロンの畑地、すなわちその畑地とその畑地にあるほら穴、それと、畑地の回りの境界線の中にあるどの木も、

18 その町の門に入って来たすべてのヘテ人たちの目の前で、アブラハムの所有となった。

19 こうして後、アブラハムは自分の妻サラを、カナンの地にある、マムレすなわち今日のヘブロンに面するマクペラの畑地のほら穴に葬った。

20 こうして、この畑地と、その中にあるほら穴は、ヘテ人たちから離れてアブラハムの私有の墓地として彼の所有となった。