2022年8月21日



「アブラハムの平安な老年」


旧約聖書 創世記 25章1〜18節




1、初めに


前回(7月24日)までのおさらいを簡単にしましょう。

アブラハムは愛する妻サラに先立たれ、アブラハムが所有する最初の土地(マクペラのほら穴)に妻を葬りました。そして、人生最後の大仕事ともいうべきアブラハムの信仰を継承するイサクのためのお嫁さん探しを忠実なしもべ(エリエゼル)に託したのです。

神とアブラハムとの契約を確かなものとするためには息子のイサクに信仰を共にするしっかりとした伴侶が必要でした。その伴侶をはるか離れたアブラハムの故郷ハランで見つけ出すという非常に困難なミッションがしもべに与えられた使命でした。すべて神様の計らいにより素晴らしい女性リベカが現れました。リベカはアブラハムの兄弟、ナホルの息子ベトエルの娘でした。神様はアブラハムの親族の中から同じ信仰を持ち、神様のアブラハムに対する祝福の契約を共有するのにふさわしい伴侶をイサクに用意しておられました。リベカもアブラハムの信仰を理解し、まだ見ぬ地の会ったこともないイサクのもとへ伴侶となるために旅立ちました。



2、もうひとりの妻と子供たち(1〜6節)


1節を見ましょう。アブラハムは再婚したのかと驚く人もいることでしょう。しかし、それは一夫一婦制をとっている現代社会に生きる私たちの感覚であって、古代近東の、特に土地を持たず遊牧民のように放浪している民族にとっては極めて自然なことなのです。一人でも多くの子供を残すことは、その人が繁栄していることを示すものであって、アブラハムが再婚したことは不思議なことではありません。サラが死んだときの年齢は127歳でした。その時のアブラハムは137歳です。アブラハムが今日の聖書箇所25章7節で175歳で死ぬことになりますから、サラが死んでから38年ほど長生きするわけです。

その間も神はアブラハムを祝福し、約束の子イサク以外にも、ケトラによって多くの子供たちを得て、さらなる繁栄を得ることになります。(2節〜4節)ケトラとの間の子どもたちも祝福を受け、それぞれアラビア地方の諸民族の起源となります。

簡単にそれぞれが居住することになるアラビヤ地方の場所を確認しておきましょう。

ジムラン…メッカの西方、葦の海(紅海)沿ったザブラムの町。

ヨクシャン…アラビヤ半島の南部に広がる。

メダン…エイラートの南、アカバ湾の東に広がる。

ミデヤン…アラビア半島の北西からシナイ半島の南部に広がる。

イシュバク…エドムの地、現在のヨルダン南部に広がる。

シュアハ…シリアからアラビアにかけての砂漠に広がる。

ケトラとの子どもたちがカナンの地ではなく、アラビア半島の方に広がっていくことを確認しておきましょう。この中で一番有名なのは、ミデヤンです。出エジプト記でモーセは、ミデヤンの地に逃れて妻をめとるでしょう。モーセの妻になるチッポラという人は、この子孫です。


神はさらにアブラハムとケトラの孫たちも祝福し、ヨクシャンに二人の子どもシェバとデダンを与え、ミデヤンに五人の子どもをもうけさせました。曾孫も与えられていることが分かります。

これは、創世記17章4節の成就です。

「わたしは、この、わたしの契約をあなたと結ぶ。あなたは多くの国民の父となる。

神の約束は必ず成就することを心に留めたいと思います。

5節、6節を見ましょう。「アブラハムは自分の全財産をイサクに与えた。しかしアブラハムのそばめたちの子らには、アブラハムは贈り物を与え、彼の生存中に、彼らを東のほう、東方の国にやって、自分の子イサクから遠ざけた。」

ケトラとの間に多くのアブラハムの子孫が与えられましたが、神とアブラハムとの契約の相続者はあくまでもイサクただ一人です。

創世記17章21節で「しかしわたしは、来年の今ごろサラがあなたに産むイサクと、わたしの契約を立てる。」と言われ、21章12節で「神はアブラハムに仰せられた。『その少年と、あなたのはしためのことで、悩んではならない。サラがあなたに言うことはみな、言うとおりに聞き入れなさい。イサクから出る者が、あなたの子孫と呼ばれるからだ。しかしはしための子も、わたしは一つの国民としよう。彼もあなたの子だから。』」と仰っています。

したがって、アブラハムは自分の財産をイサクに相続させ、他の子どもたちには贈り物を与えて、イサクから遠ざけるという判断をしました。イサクと他の子どもたちの上に将来混乱が起きないようにという配慮からでしょう。



3、アブラハムの死(7〜11節)


創世記は11のトルドット(ヘブル語で家系、系図、子孫、歴史などを意味する)という言葉で区切られていますが、6番目のトルドットが創世記11章27節から始まり25章11節で終わる物語です。「これはテラの歴史である。」で始まり、アブラハムのカナンへの移住、エジプトでの滞在、ロトとの別れ、ロトの救出、神の約束・神との契約、ハガルの逃亡、イシュマエルの誕生、イサクの誕生の予告、イサクの誕生とイサクを献げる試練、サラの死と埋葬、イサクのお嫁さん探しと結婚、ケトラとの再婚と子孫の繁栄などがあり、25章で遂にアブラハムの死のときを迎えようとしています。

伝道者の書7章2節に次のように記されています。

「祝宴の家に行くよりは、喪中の家に行くほうがよい。そこには、すべての人の終わりがあり、生きている者がそれを心に留めるようになるからだ。」

人の死は悲しいものですが、遺された私たちに様々な教訓を教えてくれます。また、神を信じる者には希望も与えてくださいます。

7、8節でアブラハムの死について短く記されています。

「以上は、アブラハムの一生の年で、百七十五年であった。アブラハムは平安な老年を迎え、長寿を全うして息絶えて死に、自分の民に加えられた。」

サラのお墓探しやイサクのお嫁さん探しに長い一章をかけて記しているのとは対照的です。また、この箇所は創世記15章15節の成就です。

 「あなた自身は、平安のうちに、あなたの先祖のもとに行き、長寿を全うして葬られよう。」


さて、大事なのは8節です。短い言葉ですが大切なことが書かれています。聖書の翻訳を比較してみましょう。

・新改訳…アブラハムは平安な老年を迎え、長寿を全うして息絶えて死に、自分の民に加えられた。

・新改訳2017…アブラハムは幸せな晩年を過ごし、年老いて満ち足り、息絶えて死んだ。そして自分の民に加えられた。

・新共同訳…アブラハムは長寿を全うして息を引き取り、満ち足りて死に、先祖の列に加えられた。

・口語訳…アブラハムは高齢に達し、老人となり、年が満ちて息絶え、死んでその民に加えられた。

・文語訳…アブラハム遐齡(よきよはひ)に及び老人となり年滿て氣たえ死て其民に加る

・NIV…Then Abraham breathed his last and died at a good old age, an old man and full of years; and he was gathered to his people.

・ヘブル語は

ベ・セイヴァー 白髪において

(15章15節でも同じように使われています。)

トッヴァー 良い[もの]

ザケン 年老いた[者]

ヴェ・サヴェーア そして満足した[者]

ヴァ・イェアセフ そして[彼は]集められました

エル・ 〜の許に

アムマ・ヴ 彼の民たち

箴言16:31「しらがは光栄の冠、それは正義の道に見いだされる。」


アブラハムの人世は、穏やかな海のような平安なものではなく、時に悩み、苦しみ、試練にさらされながらも必要な時に必ず神の助けがあり、神の声を聞くことにより、その信仰が神の友と言われるほどまでに高められ、イサクを献げなさいと命じられた最大の試練を乗越えてからは、完全に神に信頼して歩む信仰者として歩みました。

15章6節で「彼は主を信じた。主はそれを彼の義と認められた。」とあるように、主を信じることによって義と認められたアブラハムは、イザヤ書64章にあるように自分の行いに頼らないで、ただ神の恵み祝福によって、神に委ねきって老年を迎えることができました。自分の失敗や不信仰もいつまでも悔いることはありません。人のどんな善行も神の義の前には不潔な着物のようだとイザヤは言っています。

イザヤ書64章

4 神を待ち望む者のために、このようにしてくださる神は、あなた以外にとこしえから聞いたこともなく、耳にしたこともなく、目で見たこともありません。

5 あなたは迎えてくださいます。喜んで正義を行う者、あなたの道を歩み、あなたを忘れない者を。ああ、あなたは怒られました。私たちは昔から罪を犯し続けています。それでも私たちは救われるでしょうか。

6 私たちはみな、汚れた者のようになり、私たちの義はみな、不潔な着物のようです。私たちはみな、木の葉のように枯れ、私たちの咎は風のように私たちを吹き上げます。

8節の後半に「自分の民に加えられた」とあります。日本人の感覚では自分の先祖のお墓に入れられるようなイメージですがそうではありません。アブラハムのお墓は妻のサラを葬るためにヘテ人のエフロンから買ったマクペラのほら穴にあります。9節でイサクとイシュマエルが二人でマクペラのほら穴にアブラハムを葬ったと書かれています。聖書は民を二つに分けます。神の民と神の民ではない民とに。神を信じる者は神の民に入れられるのです。私たちクリスチャンにとっても死は終わりではなく、死後の霊が永遠のいのちに入ることを知っています。

第一ペテロ2章10節

「あなたがたは、以前は神の民ではなかったのに、今は神の民であり、以前はあわれみを受けない者であったのに、今はあわれみを受けた者です。」



4、イシュマエルの歴史(トルドット、トレドト)(12〜18節)


12節から18節までがイシュマエルの歴史(トルドット)です。短くイシュマエルの子孫のことが書かれています。イシュマエルは、ハガルとの間に生まれたアブラハムの長子です。イシュマエルには12人の子供が与えられ、その子供たちは16節を見ると12の部族となるまでに繁栄したことがわかります。紀元前9世紀頃のアッシリアの王の碑文の中に、このイシュマエルの子孫の名前が幾つも出てきて、北アラビア一帯を治めていたことが分かっています。

イザヤ書19章23〜25

23 その日、エジプトからアッシリヤへの大路ができ、アッシリヤ人はエジプトに、エジプト人はアッシリヤに行き、エジプト人はアッシリヤ人とともに主に仕える。

24 その日、イスラエルはエジプトとアッシリヤと並んで、第三のものとなり、大地の真ん中で祝福を受ける。

25 万軍の主は祝福して言われる。「わたしの民エジプト、わたしの手でつくったアッシリヤ、わたしのものである民イスラエルに祝福があるように。」



5、まとめと適用


アブラハムの死の準備から学びましょう。

(1) 子孫の繁栄のために

アブラハムは自らの死後の子孫たちのために、財産を分け、住むところを指定し争いが無いように配慮しました。その中でも、イサクがアブラハム契約を確実に継承できるようにしました。

(2) 死後のいのちの確認

アブラハムは死後のいのちのあることを信じていました。イサクを神に献げたときにも復活することを信じていました。私たちも死は終わりではなく、永遠のいのちへの入り口であることを信じましょう。

(3) 罪の赦しの確認

アブラハムには罪に悩む姿はありません。神にすべてを委ねきった姿がありました。罪や失敗にいつまでも悔いることはむしろ不信仰です。赦されていることを感謝しましょう。

(4) 充実した老後

人世に秋は来ますが、冬は来ません。秋は実りの季節です。身体は衰えても心は充実した日々を過ごすことが可能です。聖書を読み、祈るとき主が力を与えてくださいます。

エペソ3章16「どうか父が、その栄光の豊かさに従い、御霊により、力をもって、あなたがたの内なる人を強くしてくださいますように。」




<創世記 25章1〜18節>

1 アブラハムは、もうひとりの妻をめとった。その名はケトラといった。

2 彼女は彼に、ジムラン、ヨクシャン、メダン、ミデヤン、イシュバク、シュアハを産んだ。

3 ヨクシャンはシェバとデダンを生んだ。デダンの子孫はアシュル人とレトシム人とレウミム人であった。

4 ミデヤンの子は、エファ、エフェル、エノク、アビダ、エルダアであって、これらはみな、ケトラの子孫であった。

5 アブラハムは自分の全財産をイサクに与えた。

6 しかしアブラハムのそばめたちの子らには、アブラハムは贈り物を与え、彼の生存中に、彼らを東のほう、東方の国にやって、自分の子イサクから遠ざけた。

7 以上は、アブラハムの一生の年で、百七十五年であった。

8 アブラハムは平安な老年を迎え、長寿を全うして息絶えて死に、自分の民に加えられた。

9 彼の子らイサクとイシュマエルは、彼をマクペラのほら穴に葬った。このほら穴は、マムレに面するヘテ人ツォハルの子エフロンの畑地の中にあった。

10 この畑地はアブラハムがヘテ人たちから買ったもので、そこにアブラハムと妻サラとが葬られたのである。

11 アブラハムの死後、神は彼の子イサクを祝福された。イサクはベエル・ラハイ・ロイの近くに住みついた。

12 これはサラの女奴隷エジプト人ハガルがアブラハムに産んだアブラハムの子イシュマエルの歴史である。

13 すなわちイシュマエルの子の名は、その生まれた順の名によれば、イシュマエルの長子ネバヨテ、ケダル、アデベエル、ミブサム、

14 ミシュマ、ドマ、マサ

15 ハダデ、テマ、エトル、ナフィシュ、ケデマである。

16 これらがイシュマエルの子孫で、それらは彼らの村落と宿営につけられた名であって、十二人の、それぞれの氏族の長である。

17 以上はイシュマエルの生涯で、百三十七年であった。彼は息絶えて死に、その民に加えられた。

18 イシュマエルの子孫は、ハビラから、エジプトに近い、アシュルへの道にあるシュルにわたって、住みつき、それぞれ自分のすべての兄弟たちに敵対して住んだ。





説教者:新宮 昇 長老