2022年5月8日



「イエス・キリストの系図に名前が載った女性ルツ」

旧約聖書:ルツ記 1章1〜18節



イエス・キリストの系図−ルツはイエスさまの先祖 マタイ1章1〜16節


この箇所はイエスさまの系図ですが、ここには5人の女性が登場します。ひとりはイエスさまの母となった女性マリヤです。他の4人は、タマル、ラハブ、ルツ、ウリヤの妻です。この中からルツについてお話ししたいと思います。



1 ナオミの家族の移住と息子たちの結婚

ルツ記の出来事が起きたのは紀元前1150年頃では無いかと言われています。日本だと縄文時代後期くらいです。その頃のイスラエルは、まだ王さまはいなくて、士師が治めていた時代です。この時代は政治的には暗黒時代で道徳的堕落と信仰の低下の時代でした。特にルツ記の時代は士師(しし)の治めていた時代の後期で、すでに士師による統治もあまり上手くいっていませんでした。そのような暗黒時代にさらに飢饉(ききん)が起こりました。

エリメレクとナオミの家族はベツレヘムに住んでいましたが、元々は豊かな地であったベツレヘムも飢饉で打撃を受け、エリメレク一家はモアブへの移住を決行しました。移住したのはエリメレクと妻のナオミ、そして息子たち2人です。ヘブル人の外国への移住は禁止されていましたので、エリメレク一家のモアブ移住は苦渋の決断だったと思います。

ちなみに、モアブ人というのはアブラハムのおいのロトとその娘の間にできた子どもの子孫です。ヘブル人とモアブ人の間には色々ないざこざがあってお互いに友好的ではありませんでした。そのため、ヘブル人のエリメレク一家がモアブへ移住したのはかなり思い切った決断であったと思われます。

また、そのような交流の無い土地への移住だったので、一緒に移住した息子たちが結婚する年齢になっても、結婚相手になるようなヘブル人の娘は近くにいませんでした。そのため、二人はモアブ人の女性と結婚することになりました。それが、ルツとオルパです。ルツが兄マフロンの妻で、オルパが弟キルヨンの妻です。しかし、実は、異教の民との結婚もヘブル人には禁止事項でした。



2 エリメレクと息子たちの死とナオミとルツの帰還

エリメレクと息子たち二人は物語の序盤で亡くなっています。何故、亡くなったのかは分かりません。しかし、彼らの死によってエリメレクの一家はナオミとルツとオルパの女性三人だけになってしまいました。ナオミは約10年間モアブの地に住んでいましたが、その間にベツレヘムの飢饉が終わったことを聞いたので、ルツとオルパを連れてベツレヘムへ帰ることにしました。

しかし、帰る途中でナオミは思い直してルツとオルパに実家へ帰るようにうながします。二人をベツレヘムへ連れて行っても苦労することが分かっていたので、実家へ帰って再婚した方が幸せだと思ったからです。そして、オルパの説得には成功しましたが、ルツは説得には応じず、ナオミの方が折れてルツを連れてベツレヘムへ帰りました。


話が少し前後しますが、エリメレク一家の信仰について考えたいと思います。

一家がモアブへ移住したこと、息子たちがモアブ人の女性と結婚したことから、一家は信仰の足りない人たちだったのでは?と思われるかもしれませんが、それは違うようです。嫁いできたルツとオルパがユダヤ教に改宗しているところをみると、一家は信仰的にはきちんとしていたようです。モアブ人の中に入って生活していたので、彼らがモアブ人の宗教に改宗する可能性もあったと思いますが、逆に嫁いできたルツとオルパがユダヤ教(当時はまだキリスト教はありません)に改宗するほど誠実に主に従っていたことがわかります。


また、ルツ記1章16・17節を読むと、ルツのナオミに対する深い愛情を感じ取ることが出来ます。さらに、ルツの主に対する深い信仰も感じ取ることができます。ルツは実家へ帰されることでナオミと離ればなれになることを悲しんでいましたが、それと同じくらい、実家へ帰ることで再度モアブ人の宗教へ改宗させられ、主への信仰を捨てなければならないことを恐れたのではないかと思います。こうして、ナオミとルツは二人でベツレヘムへ帰っていきました。



3 ルツとボアズの結婚

ベツレヘムでルツとナオミが二人で生活していくのはそれほど簡単なことではありませんでした。ルツは食べていくために畑で落(お)ち穂(ぼ)拾(ひろ)いをさせてもらうことにしました。

この落(お)ち穂(ぼ)拾(ひろ)いというのは神様によって定められた社会的弱者の救済制度でした(レビ記19:9・10)。そして、この時ルツが落ち穂拾いをしに行った畑はエリメレクの親類であるボアズの畑でした。これは神様の導きであり、ご計画のうちでした。

ボアズはルツに目を留めて、自分の家の使用人たちにルツに親切にするように命じるとともに、自分からもルツに話しかけてルツが落ち穂拾いをしやすいように便宜(べんぎ)を図りました。そのためルツはたくさんの大麦の落穂を拾うことができ、ナオミはボアズがルツに親切にしたことを知りました。


この後、大麦と小麦の収穫が終わる頃、ナオミはルツとボアズを結婚させるためにルツに知恵を与えて行動させます。大麦の収穫が終わると、ボアズが打ち場で大麦をふるい分けようとしていることを知ったナオミは、ルツに求婚させるために、夜、ルツを打ち場へいかせました。重ねてある麦の端で寝ていたボアズが夜中にふと目を覚ますと、足元にルツが寝ていたので大変驚きました。

これは、当時のヘブル人の求婚の習慣による行動で、先に既成事実を作って結婚に持ち込ませようとするような行動ではありません。この時、ボアズは神様にもルツにもナオミにも誠実に行動し、ルツには一切触れませんでした。そして、ボアズは早朝に、他の人に分からないように、しかし、ナオミにはルツの求婚を受け入れる用意があることがわかるようにしてルツを帰しました。

そして、ボアズは自分よりもナオミとルツの買い戻しの権利(※1)の順位の高い親類に会って、ナオミとルツに対して親類の役目を果たすつもりがあるかどうかを確認しました。その親類が買い戻しの権利をボアズに譲ったので、ボアズは誰からも祝福される形でルツを妻として迎えることができました。そして、ボアズとルツの間に生まれた男の子はダビデの祖父になりました。



4 ルツ記が伝えること

ルツに起こった出来事は人の目には不思議な偶然の重なりによるものであり、悲しい出来事や苦労もあったかもしれないけれど、最後には裕福で優しい男性と結婚して子どもにも恵まれたシンデレラストーリーのように映るかもしれません。しかし、神様を信じる人にはただそれだけの物語ではありません。

まず、この物語から私たちは神様が「すべてのことを働かせて益としてくださる」方だということを知ることができます。エリメレクの一家がモアブに移住したり、息子たちがモアブ人と結婚したことは、飢饉で仕方なかったとしても、ヘブル人としてはきっと最善ではなかったでしょう。しかし、ローマ人への手紙8章28節には次のように書かれています。

「神を愛する人々、すなわち、神のご計画に従って召された人々のためには、神がすべてのことを働かせて益としてくださることを、私たちは知っています。」

ルツ、ナオミ、ボアズに起こったことはまさにこの聖句の通りだったと思います。そして、もっと長い視点で見ると、ルツとボアズの子どもはダビデ王の祖父となり、ひいてはイエス・キリストの系図に名前が載るという祝福にあずかることになりました。


私たちが生きていくということは選択の連続だと思います。祈っていたとしても選択を誤ることはありますし、罪を犯すこともあります。しかし、神様は私たちのしてきたこと、してしまったことを全て益としてくださることのできるお方です。もちろん、祈りながら御心を求めていくことはとても大切ですし、そうすべきですが、もし、失敗してしまってもがっかりしないでください。私たちは失敗することがありますが、神様は失敗しませんから。


次に、ルツ記はイエス・キリストの贖いの「型」であることを知ることが出来ます。旧約聖書は、その書に書かれていることだけで完結しないで、必ず新約聖書でどう言われているのかを確認する必要があります。

ルツ記の場合、新約聖書でルツ記に言及されている箇所は最初にお読みしたマタイの福音書の系図だけなのですが、ルツ記の場合は、ルツ記全体がイエスさまの贖い(あがな)(※2)をあらわす「型」になっています。

ルツ記の中では「買い戻し」という単語が重要なキーワードになっていますが、ボアズがルツとナオミを買い戻したように、イエスさまは私たちを「買い戻し」(贖(あがな)い出し)てくださいました。ボアズは自分の財産を使ってルツとナオミを買い戻しましたが、イエスさまはご自分の血をもって私たちを買い戻してくださったのです。


すでに私たちは主によって買い戻されています。全てを知り、委ねる者のために最善をなしてくださる主を信じる信仰者とさせていただきたいものです。


※1
「(旧約聖書の)律法(りっぽう)(申命記25:5-10)は、女性は死んだ夫の兄弟と結婚することができると定めている。しかしナオミにはもう息子がいなかった。そういう場合は、死んだ夫に最も近い親戚がその家を買い戻し、未亡人と結婚することができた。もしその親戚がそれをしないと決めた場合、次に近い親戚が代わりを務めることができた。」BIBLE navi)


※2
「贖(あがな)い」とは、代償(だいしょう)を払うことによって、ある人を「買い戻す」または「自由にする」という意味です。キリストは、その聖(きよ)く貴(たっと)い血と、罪なくして受けた苦しみと、死とによって、私たちの罪のために償(つぐな)いをし、またその完全な生涯と全面的な服従により私に代わり律法(りっぽう)を満たすことによって、私を贖(あがな)われました。」Tペテロ1:18-19(小教理問答書解説175,176)


説教:菊池 由美子 姉




旧約聖書<ルツ記 1章1〜18節>

1 さばきつかさが治めていたころ、この地にききんがあった。それで、ユダのベツレヘムの人が妻とふたりの息子を連れてモアブの野へ行き、そこに滞在することにした。

2 その人の名はエリメレク。妻の名はナオミ。ふたりの息子の名はマフロンとキルヨン。彼らはユダのベツレヘムの出のエフラテ人であった。彼らがモアブの野へ行き、そこにとどまっているとき、

3 ナオミの夫エリメレクは死に、彼女とふたりの息子があとに残された。

4 ふたりの息子はモアブの女を妻に迎えた。ひとりの名はオルパで、もうひとりの名はルツであった。こうして、彼らは約十年の間、そこに住んでいた。

5 しかし、マフロンとキルヨンのふたりもまた死んだ。こうしてナオミはふたりの子どもと夫に先立たれてしまった。

6 そこで、彼女は嫁たちと連れ立って、モアブの野から帰ろうとした。モアブの野でナオミは、主がご自分の民を顧みて彼らにパンを下さったと聞いたからである。

7 そこで、彼女はふたりの嫁といっしょに、今まで住んでいた所を出て、ユダの地へ戻るため帰途についた。

8 そのうちに、ナオミはふたりの嫁に、「あなたがたは、それぞれ自分の母の家へ帰りなさい。あなたがたが、なくなった者たちと私にしてくれたように、主があなたがたに恵みを賜り、

9 あなたがたが、それぞれ夫の家で平和な暮らしができるように主がしてくださいますように」と言った。そしてふたりに口づけしたので、彼女たちは声をあげて泣いた。

10 ふたりはナオミに言った。「いいえ。私たちは、あなたの民のところへあなたといっしょに帰ります。」

11 しかしナオミは言った。「帰りなさい。娘たち。なぜ私といっしょに行こうとするのですか。あなたがたの夫になるような息子たちが、まだ、私のお腹にいるとでもいうのですか。

12 帰りなさい。娘たち。さあ、行きなさい。私は年をとって、もう夫は持てません。たとい私が、自分には望みがあると思って、今晩でも夫を持ち、息子たちを産んだとしても、

13 それだから、あなたがたは息子たちの成人するまで待とうというのですか。だから、あなたがたは夫を持たないままでいるというのですか。娘たち。それはいけません。私をひどく苦しませるだけです。主の御手が私に下ったのですから。」

14 彼女たちはまた声をあげて泣き、オルパはしゅうとめに別れの口づけをしたが、ルツは彼女にすがりついていた。

15 ナオミは言った。「ご覧なさい。あなたの弟嫁は、自分の民とその神のところへ帰って行きました。あなたも弟嫁にならって帰りなさい。」

16 ルツは言った。「あなたを捨て、あなたから別れて帰るように、私にしむけないでください。あなたの行かれる所へ私も行き、あなたの住まれる所に私も住みます。あなたの民は私の民、あなたの神は私の神です。

17 あなたの死なれる所で私は死に、そこに葬られたいのです。もし死によっても私があなたから離れるようなことがあったら、主が幾重にも私を罰してくださるように。」

18 ナオミは、ルツが自分といっしょに行こうと堅く決心しているのを見ると、もうそれ以上は何も言わなかった。